長い役者生活をされていたが大杉漣さんを最初にドラマで観たのはひとつ屋根の下の刑事役だろうか。
その次がカバチタレ、そしてロング・ラブレター、さよなら小津先生、ランチの女王、ビギナー、神はサイコロを振らないと出演作を観たはずだがこの頃あまり重要な役どころではなかったのか正直記憶に残っていない。
大杉さんの演じた役で最初の記憶は2006年のマイ・ボス マイ・ヒーローで長瀬演じる主演の味方をするやくざの番頭役あたりから。
そして特に印象に残っているのが2010年のゲゲゲの女房の松下奈緒が演じた布美枝の頑固おやじ役だった。
好きなシーンは娘と婿の村井(向井理)の暮らしぶりを知るために二人のもとに上京してくるところ。
それを知った布美枝はみすぼらしい生活に娘婿の甲斐性がないと思われてはいけないと松坂慶子演じる貸本屋のおばさんに相談して貸本のサービス券をばらまき客を集めてサイン会を開催して有名な漫画家だと父を安心させようとする。
しかしひょんなことからサービス券で客を集めていたことがバレて父は激怒する。
「一生懸命、働いてそれでも貧乏なら堂々と貧乏しとったらいいんだ!それを周りの人までまきこんで!ええ風に見せようとするお前たちの考えが気に入らん!」
「ええ男に嫁がせたと思っとったが、ワシの間違いだったかの。」
夫がなじられるのを見て布美枝が、
「そげなこといわんで!」
「お父さんは、何も知らんけんから、そげな風に思うんだわ。」
「ウチの人は、小細工なんかせんですよ。何を言われても、いつも堂々と自分の好きな漫画にうちこんどる。」
「あたしはよう知っとります。夫婦ですけん。ウチの人が精魂込めて書いとるとこ一番近くで見とるんですけん。間違いだなんていわんで欲しい。ウチの人は本物の漫画家ですけん。」
そして死にそうな顔の青年太一くんがやってきて色々あり
「上手く言えないけど、生きる支えみたいな感じ、先生の漫画、おばさんの店でで借りて読むのが楽しみで」
娘婿に本物のファンがいると知り漫画家としての腕を認めて村井に、
「あんた碁はうつか?腕はどげなもんだ?今度来た時に手合わせ願おうかな。これ(村井の漫画)は大事に読ませてもらうけん。なかなか面白そうだ。」
そして娘との別れ際で、
「がんばれよ。親をあてにしたらいけんぞ。自分たちで何とかやっていけ。40年、50年連れ添ううちにはいい時も悪い時もある。ええ時は誰でもうまくやれる。悪い時にこそ人間の値打ちが出るだげな。」
布美枝が、
「なあ、お父さん。お金がないけど私毎日笑って暮らしとるよ。」
と返す。
「そげか」とだけ言い頑固おやじが娘の成長を知り涙をこらえ夕日の中で帰っていくところが特に好きなシーンだ。
このドラマの後半で亡くなるところがオーバーラップしてしまう。
とてもいい役者さんで大杉漣さんが出演する作品は出来るだけ観るようにしてきた。
どんなくず脚本でも彼が出演するだけでドラマがもってしまうところが素晴らしい。
そんな名俳優が早世したのは本当に残念だ。
謹んで大杉漣さんのご冥福をお祈りいたします。