KYBにて免震のダンパーのデータ改ざんのニュースが連日流れている。
間違って株を買っていなくてよかったというのが第一印象で自宅マンションは免震で無いのでさほど関心はない。
昔ホンダ車でジムカーナをやっていた頃に金がなくてビルシュタインに手が届かず当時安物だったカヤバ製のスポーツモデルに履き替えたくらいか。
それでも入院中で暇なのでもしデータ改ざんが身に降り掛かったらどうするか考えてみた。
まあ妄想を膨らませた創作だと考えてもらえばいい。
フィクションとなるのでディテールの突っ込みは無しで。
佐藤さん(仮名)は45歳で従業員4800人の製造業に従事している。
主力部品のシェアが31%と業界トップ企業で同業7社でしのぎを削っていた。
係長格で製造部に所属していたが人事考課(評価)は中の下で昨年より社員数7名の品質管理部に異動した。
花形の設計部からの異動なので人事から辞令があったときには左遷かとショックだったが異動先の部長から課長の後任の内示を貰っていたので快く引き受けた。
更に自分が退職したら後任の部長という口約束も貰った。
息子の養育費や母親の面倒、家のローンもあり月々の赤字をボーナスでなんとか穴埋めしており趣味の車を中々買い換えられずにいた。
課長に昇給できれば車も買い換えられるだろうし社内ではリストラの嵐が吹き荒れて社員は戦々恐々しているが管理職に昇格して次期部長候補であればリストラもどこ吹く風になる皮算用だ。
こんないいお話はない。
一方品質管理部の石原部長(仮名)は改ざん担当者を探していた。
現在の担当者である広瀬課長(仮名)は3代目だがそろそろ退職になる。
彼の部下は改ざんの事実を知らないし知っているのは二人と前任の部長である笹森取締役の三人だけだ。
退職間近の広瀬課長からは改ざんの事実を墓場まで持っていくように言質を取れている。
それだけでは怖いので保険として職能、給与面、休暇などで他の社員に比べて優遇し共犯者としての負い目を本人も感じているのでまず問題はないと部長は考えている。
しかし来年退職でありシニア採用するにも役職まで継続できないので責任者にできない。
彼の部下は全員頭が固いので引き継ぎに失敗して大事になり笹森取締役へご迷惑をかけるのはまずい。
だから外部署から呼び入れて「改ざん担当の引き継ぎ」をしなければならないと考えていた。
部長自身もあと数年で退職で定年のない取締役へ上がれるか微妙な状況だがどちらにしろ部長のポストも空くので将来性を餌にできる。
彼は人事に相談して広瀬課長の後任探しを依頼した。
社員特性として上司からの命令を素直に聞き家族構成が多く出来れば会社で住宅ローンを組んでいる条件で探して貰っていた。
人事は住宅ローン有りという条件を訝しく見たが取締役の意向でできる限り会社の意に沿った社員を課長にしたいという理由を受け入れた。
そして1年前に紹介されたのが佐藤さんだ。
彼を広瀬課長の下で1年働かせそのまま引き継いで貰う計画だ。
佐藤さん本人にとっても係長待遇から前任者の退職と同時に課長待遇に昇格の約束と同時に給与も上がるので願ったり叶ったりだ。
これまで広瀬さんはデータ改ざんについてはぼやかして引き継ぎをおこなってきた。
品質管理担当者から引き渡される計測データに1.097倍の係数をかけ実測データとして保管していた。
これは部品のカバーの耐久を加味した係数ということだが、佐藤さんは納得できなかった。
佐藤さんは以前広瀬課長に居酒屋で実測に係数を掛けるのではなく本来はカバーをつけた状態で計測すべきではないかと質問したところ「うちの会社じゃこの部品のデータはカバー付と昔から決まっていてカバーの耐久性にはマージンを取ってあるから問題ない」とかわされている。
そして1年後に佐藤さんはデータ改ざんを引き継ぐようにと突きつけられた。
部長もこの件は知っているということだったのでさすがに青白み直談判したところもし担当を引き継がない場合は職務怠慢と人事に報告し事実上のリストラを受けると言い渡された。
もし内部告発などしたら君も共犯として会社から解雇されるだろうと脅された。
それに会社の40%の売上を占める部品で利益のおよそ60%を叩き出している。
もし改ざん問題が外部に漏れると悪評の競争力低下も相まって会社自体が存続できるかも怪しい。
我が身に振り返ってみれば家のローンもあと15年残っており介護している母親は亡くなった父と自営業を営んでいたので遺族基礎年金だけで経済的にも支援が必要だ。
更に二人の子供はまだ高校生と大学生でしばらく養育費もかさむときている。
今職を失うのは致命的で家族離散になりかねない。
佐藤さんはどのように行動すべきだろう?
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自分に降りかかってきたら、、
この状況だと社内でデータ改ざんに手を染める以外の退路は断たれている。
内部告発をしたところで事の重大さに上層部にもみ消される可能性が高い。
正義をふりかざしてマスコミにリークをすれば社内で犯人探しをされ、というよりされるまでもなく退職を余儀なくされる。
そう、
「正義では飯は食えない」のだ。
だからまずはそのまま引き継ぐ態度で職探しを開始する。
最初は同業6社で中途採用のあてがないかを探し、無ければ別の企業だ。
同業だとデータ改ざんが表面化したときに経歴から関わったと分かり居づらいので出来れば違う製造業がいい。
現在売り手市場なので44歳という年齢ならなんとかこれまでの設計技術があれば10%オフの年収で再就職ができるかも知れない。
再就職先が見つかったら「精神的な病気」を理由に辞めてしまう。
ここは部長との交渉次第だが会社理由退職でそれなりに退職金を上乗せしてもらう代わりに口外無用という条件を引き出すのがベストだ。
自分から言い出してはいけないし下手な文書も残してはいけない。
難しい交渉になるかもしれないが人生最大の危機なので乗り切りたい。
住宅ローンの問題もあるが再就職先が決まっていれば銀行の借り換えも可能になる。
借り換えで膨らんだ借金は期間を延長して吸収する。
再就職してしまえばあとは再就職した会社にわからないようデータ改ざんのリークを考えればいい。
そして再就職が決まらない場合。
正義より生活の方が大切なので不正に手を染めるしかない。
そして最終的に部長に昇格して権力を手に入れてから改革をする。
「正義では飯は食えない」
問題なのは該当部品が命に関わるか。
もし関わるものだったら改ざんした部品で人が死ぬかもしれない。
自己犠牲でクリーンにするか危険な部品を世に出すか。
残念ながら自分の中で回答は出なかった。
以前実際に身に降り掛かってきたのが社内で契約違反で顧客に有利なビジネス形態でプロジェクトを運用しておりそれを知らずにリーダーを引き受けてしまった事がある。
詳しくは書けないが監査で見つかれば責任者とリーダーは懲戒か懲戒解雇になる内容だった。
利益供与にあたり法に抵触している話だ。
当初責任者に改善を依頼したが例題のように一度手に染めた悪事から逃れるのは難しいらしく監査の事例も少ないのでバレないから大丈夫だろうという姿勢で改善策はナシの礫だった。
そこで半年で改善できなければ社内法務に告発すると関係者全員に通達して顧客にも理解を求め顧客側の費用インパクトを最小に抑える対策をし内々で正常化することができた。
上司からも反対されながら完了するまで結局一年近くかかったが自分が担当していなければあの不正は脈々と続いていつかバレて誰かが被害者になっていた。
顧客側の責任者が交代してコンプライアンスの高い意識がある人に変わっていたのも達成に寄与している。
それに告発や改善が会社の利益を守ることになるので今回の件とは大きく違う。
正義を振りかざしたわけでもなく自分が懲戒解雇にでもなったら退職金すら出ないのでたまらんと発覚する前に前になんとかしようと足掻いただけだ。
それに過去の顧客の利益供与の損失が補填されたわけではないので完全解決できたわけでもない。
連綿と続いてきたKYBの改ざん担当ももしかしたら逃げ道がなく苦渋の選択をせざるを得なかったかもしれないのかもしれないと勝手に妄想を膨らませてみた。
KYBのニュースでひとつだけいいたいのはデータ改ざんを最初に指示した奴が社会的に一番重い処分を受けるべきだ。
その人物が退職していようと。