映画『八犬伝』 感想──虚と実に葛藤する物語の魅力

アマゾンプライムビデオで久々に最後まで一気見した映画だった。

映画『八犬伝』は、虚構と現実を巧みに行き来しながら、江戸の創作世界と歴史の狭間に生きた人々の姿を描く作品だ。

単なる時代劇ではなく、馬琴の『南総里見八犬伝』という物語そのものと、それを生み出した作者の葛藤を重ね合わせた、重層的な構造が特徴的である。

本作は、戯作家・滝沢馬琴と浮世絵師・葛飾北斎の交流を軸に展開する。

そこに、『八犬伝』という虚構の世界が重なり、さらに馬琴の文学観と対立する鶴屋南北の現実主義的な視点が加わることで、三層構造の物語が生まれる。

馬琴の理想主義が生み出す勧善懲悪の世界は「虚」であり、それに対して南北の舞台が描くのは、混沌とした現実社会の「実」。

さらに、その「実」の世界で葛藤する馬琴自身の人生が重なり、物語全体が虚実の入り混じる壮大な絵巻として展開される。

こうした構造を意識しなくても、本作は純粋にエンターテインメントとして楽しめる。

特に、役所広司、内野聖陽、寺島しのぶ、黒木華といった名優たちが織り成す実世界の人間ドラマは圧巻である。

一方、虚構の八犬伝世界を彩る若手俳優たちの演技や殺陣も印象的で、特に彼らが体現する八犬士の姿には、1970年代以降の戦隊ヒーローのルーツが感じられる。

八犬士の「揃い踏み」は、まるで特撮作品の決めポーズのように堂々と描かれ、日本のポップカルチャーの原点を改めて思い起こさせる。

玉梓を演じた栗山千明は好きな女優のひとりだが、角川映画版『里見八犬伝』での夏木マリには及ばないのが残念だった。

意外にも、当時の夏木マリは若干30歳であり、それでも圧倒的な存在感を放っていた。

これは彼女の持つ妖艶な雰囲気と、深作欣二の演出が生み出した怪演だったのだろう。

それでも、今回の栗山千明の演技には彼女なりの表現があり、今後の方向性が見えた映画でもあった。

ザッピングするような物語構成の作品は苦手なほうだが、本作は最後まで一気に観ることができた。

それほどに、脚本と演出のバランスが見事であり、観客を引き込む力がある。

馬琴の八犬伝への想い、虚構と現実の対比、そして時代を超えて受け継がれる物語の力を描いたこの作品は、単なる時代劇ではなく、日本の文学とエンターテインメントの奥深さを再認識させてくれる一作だった。

おーら
おーら
この作品を観るための難関はあの犬のCG問題だ。原作では姫役の土屋太鳳の袖を犬が引っ張っているはずだが腕を咥え込んで見える。それに殿が一切言及しない。あそこで自分が殿だったら「姫、手が喰われているぞ。大丈夫か!」だ。あの時点でこの先のクオリティが垣間見え視聴を中止しようか悩んだ。他のCGに予算が嵩んであそこだけ低予算になってしまったのか不思議だ。八犬伝だからあの犬さえ乗り越えていけばこの映画は面白いという元CGアニメーター上がり特有の監督のメッセージなのだろうか?んなわけないかw


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